今から始める子どもの近視予防
近視は眼鏡やコンタクトレンズで矯正すればいいのでは?と思われるかもしれません。しかし、近視が進むと将来的な眼の病気のリスクも高まると言われていて、早めの対策が必要です。近年増えている子どもの近視の進行を抑えるにはどうしたらいいのでしょうか?岡眼科 飯塚クリニックの岡義隆院長と先進会眼科 福岡の菅沼隆之院長にお聞きしました。
子どもの視力事情
文部科学省『学校保健統計調査』(2016年度)※単位%
視力が1.0未満の小学生は年々増加し続け、2016年度の文部科学省の統計調査によると、40年前に比べて1.5倍にもなっています(上図)。この調査結果から、視力低下が見られる高校生は6割以上と、年齢とともに近視になる子どもの割合は増えているのがわかります。また、令和2年度の福岡県の学校保健統計調査では、小学校が45.8%、中学校が59.8%、高等学校が70.5%という結果でした。福岡県単体で見ても、表の調査時より視力1.0未満の子どもが増えています。
近視は上の写真のように眼軸(角膜から網膜までの距離)が伸びることによって生じます。やっかいなことに、いったん近視が始まると、体の成長と同じように成人になるまで進み続けてしまうのです。その一方で成人以降は近視の進みは止まるとされています。
菅沼先生:眼鏡をかけたらどんどん視力が悪くなったと思っている方も多いですが、それは近視が進んでいる最中に眼鏡を作っているからです。成長とともに靴のサイズが変わるのと同じで、靴を履いたから足が大きくなったわけではありませんよね。成人になるまで進行するということは、近視の始まりが早いほど、強度の近視になる可能性が高いと言えます。
近視になる原因は何がある?
近視の原因は、遺伝的要因と環境的要因の2つが挙げられます。
遺伝的要因:
・アジア人に多い
・親からの遺伝
(両親とも近視でない子と比べて、片方の親が近視の子は約2倍、両親とも近視の子は約5倍の確率で近視になりやすい)
環境的要因:
・長時間近くを見ることが多い
・屋外活動が少ない
近年、日本だけでなく各国で近視の子どもが増えているのは、スマートフォンやゲーム機の普及で、長時間近くを見ることが多くなっていることも理由の一つと言われています。では、もう一つの環境的要因である屋外活動と近視はどんな関係があるのでしょうか。
菅沼先生:2016年の慶応義塾大学の研究で、太陽光に含まれる「バイオレットライト」に近視の進行を抑制する遺伝子を活性化させる働きがあることがわかりました。
「バイオレットライト」とは、360~400ナノメートルの波長の光で、室内の照明にはほとんど含まれていません。つまり、太陽の光を浴びると近視が進みにくくなる可能性があるということです。窓ガラスは「バイオレットライト」をカットするので、窓ごしの光では効果がありません。子どもの目を守るためにも、外遊びをたくさんして、太陽の光を浴びるようにしましょう。
近視の進行は止められる?
画像はイメージです
近視になってからの矯正方法としては、眼鏡やコンタクト、裸眼で過ごしたい場合はレーシック手術などがありますが、子どもの近視の進行を抑える治療として期待されているのが、「オルソケラトロジー」です。夜間に専用のハードコンタクトレンズをつけて寝ることで、角膜の形を正常な状態に変化させます。
菅沼先生:当初「オルソケラトロジー」は、日中に裸眼で生活できる矯正方法として普及してきました。その中で、「オルソケラトロジー」をつけていると近視が進まない子どもが多いことが報告され、さまざまな研究や検証の結果、近視の進行を平均で半分以下に抑えられることがわかっています。
岡先生:夜間につけて昼間は外すので、親の管理下で近視矯正に取り組めるという点で安心です。スポーツをしている子どもにも適しているでしょう。1週間ほどレンズを外し続けると角膜は元の形に戻りますので、子どもに合わないと感じたらやめられることも利点の一つと言えます。
眼病リスクを高める近視
ひと昔前は眼鏡をかけるかかけないかという話に過ぎなかった近視。今は、いかに進行させないか、子どものときからケアする時代に変わってきています。
岡先生:近視は、緑内障や網膜剥離、黄斑変性症といった将来失明につながるかもしれない眼病のリスクを高めることがわかっています。「オルソケラトロジー」を子どものうちに行うことで、近視を矯正できるだけでなく、将来的な眼病のリスク低減にも役立ちます。お子さんが近視かもしれないと思ったら、早めに眼科を受診しましょう。
なお、「オルソケラトロジー」は自由診療となっています。費用はクリニックによって異なりますので、お問い合わせください。
profile
岡 義隆(おか よしたか)先生
岡眼科 飯塚クリニック院長・医療法人先進会 先進会眼科理事長。聖マリア病院眼科外来医長などを経て、2002年に飯塚市にて開業。先鋭の技術を取り入れた手術を数多く手掛けるほか、東京、大阪、広島、福岡でグループクリニックを展開する。
岡眼科 飯塚クリニック
https://www.okaganka.com/iizuka.html
profile
菅沼 隆之(すがぬま たかゆき)先生
先進会眼科福岡院長。自衛隊福岡地区病院、南青山アイクリニック福岡院長、品川近視クリニック福岡院長などを経て、2014年より現職。ドライアイや屈折矯正手術、老眼、白内障、網膜の病気など幅広く治療。円錐角膜手術を得意とする。
先進会眼科
https://senshinkai-clinic.jp/