今を生きるワーキングマザーの短歌集「いつも空をみて」
“左手を握ったまんま右の手でバイバイをして送り出される”
“真夜中にレモンをがりりと齧っても私じゃなくて母親のまま”
“TODOのリストに子どもの一日の話を聞くことを追加する”
これらは、1972年生まれの歌人、浅羽佐和子さんの短歌集『いつも空をみて』に綴られた歌です。
Ⅰ部で描かれているのは、一人暮らしの働く女性の日常や恋人との甘やかなひと時。
Ⅱ部は一転、子どもが生まれ、仕事と子育てに板挟みになっている苦しさや、子どもとただ向き合う子育ての「果てしなさ」と「孤独感」、そしてそれをわかってくれない夫へのいら立ちなどが赤裸々に描かれています。
いち社会人として働く「わたし」。
子どもにとって、唯一無二の「母」。
社会が「こうあるべき」と定義する「お母さん」の姿。
どれもうまくやれない自分に泣けてきたり、「この子には私しかいないんだな」としみじみ思ったり。
「ワーキングマザーの悲哀」とひと言で言ってしまうには重たい、きれいごとばかりではない育児の実態を五・七・五・七・七の31文字にのせて描いています。
とはいえ、決してつらい話ばかりでもなく。
子どものあどけない一言や小さな手のひら、子どもがいる日常の幸せも描かれていて、思わず微笑んでしまう歌も綴られています。
現代ではあまりなじみがない一方で、大昔からあるこの“短歌”というシンプルな手法だからこそ、よりストレートに伝わるその心情。子育てを経験したことがある方なら、誰もが思わず頷いてしまうことでしょう。
働くお母さんや、うまく言葉にできない思いを抱えている方に読んでいただきたい一冊です。
今回ご紹介した本
『いつも空をみて』
著者:浅羽佐和子
出版社:書肆侃侃房
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